[All About 次元(Jigen)]中国におけるモノ作りの限界

2013.01.27

投稿者 : ほっしぃ

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前回の「[All About 次元(Jigen)]驚異の技術D3テクスチャー。」では、次元シリーズの産みの親である原 雄司氏との出会いとD3テクスチャーの技術の凄さについてを書きましたが、今回はそこに辿り着く前の背景などについて触れたいと思います。

実は近い話をAppleがアメリカ国内で生産をするというニュースの後に「製造現場の本国回帰の流れから見る中国生産の問題点」というカタチで軽く触れたことがありました。今回は2011年11月の運命の出会いよりも前の実際の状況を書いてみたいと思います。

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2007年からSimplismというブランドを使い始めたのですが、実際には2006年から当社オリジナル製品としてiPod nano(2nd)用シリコンケースを発売していました。すでに記憶が定かではありませんが2007年からSimplismの名前を使ってiPod nano(3rd)用製品などを発売していました。余談ですが、当時はMophie社の日本総代理店を務めていました。まだ現Quirky創始者のBen Kaufman氏がMophieを創業して間もない頃でした。

その後、今日までさまざまな製品を開発してきたわけですが、当初は台湾で製造し、その後に物量が捌ききれなくなり中国本土に渡り、いろいろな工場と出会い、時には分かれて、それでも自分たちで欲しいモノ、作りたいモノを作っていこうという思想の元に続けてきました。そしてラインナップは保護フィルムからシリコンケース、ハードケース、セミハードケース、レザーケース、電源、リモコンなど多岐に渡るようになってきました。

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それまで保護フィルムの一部は日本製でしたが、その他はすべて日本で企画しつつも製造は中国で行なっていました。もちろん、市場のほとんどが同じように中国製のものばかりでしたが、私たちはそこにデザインや使い勝手などの工夫を加えて製品作りを行ない、他社との差別化を図ってきていました。しかしながら、Appleの爆発的な成長と、iPodから始まり、iPhoneやiPadなどのデバイスが急速に拡がり、ビジネスとしても巨大な市場になってくると共に、ゴールドラッシュのようにたくさんの競合他社が参入を始めました。保護フィルムやケースというのは作ること自体は特殊な技術が必要とされないため参入障壁が低いために過当競争に陥りやすいのです。

もちろん、製品自体の差別化は行なっていましたし、それまで培ってきた歴史やチャンネル、ブランドなどもありましたので、なんとか転げ落ちずに頑張っては来ていましたが、それでも他社もたくさんの勉強をして、取り込めるところは取り込み、場合によっては先を越されることもありました。差別化を図れない、もしくはわかりにくい製品は最終的には価格競争に巻き込まれて競争力が落ちていってしまい、結果として販売不振を招いてしまいます。すべての製品について、私たちなりの工夫は加えていたつもりではありましたが、それがわかりにくいものが増えてきてしまっていました。

その中で今後も生き残っていくためには、より明確な差別化が必要だと考えていました。当時、iPhone 4Sが発売され外観はほとんど変わらなかったためにケースの刷新がなく、iPodシリーズはラインナップに変更がなかったということもあり、新しい製品をアピールする機会がそれまでよりも少なく、焦りは募っているところでもありました。新しい素材や技術、チャレンジしてみたいということはたくさんありましたが、そこには大きな壁が立ちはだかっていました。

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中国で生産することは、私たちにとっては非常に大きなメリットをもたらしてくれます。それは圧倒的な人海による短納期・大量生産と全体的なコスト安からくる低価格です。しかし、そこにはデメリットも多く潜んでいます。コストやクォリティの面においては以前に書いたエントリーを参考にしていただけると助かりますが、今回は新しいチャレンジについてのデメリットについて書きます。

中国は広く、日本の10倍以上の人口があり、会社の数も多いために、一概に言うことはできませんし、ものすごく良い技術を持っているところもあるとは思いますので、あくまでも私たちが出会った工場という範囲に限定させてもらいたいと思いますが、これまで数十社とやり取りをしてきましたが、そのほとんどは「それまでにやったことないことは、不可能」というスタンスに立っている場合が多いです。

つまり、新しいアイディアを出した場合に、それまでにそれを作った経験が無い場合には「それはできない」と言い張るわけです。彼らにとってできないことは、世の中でもできないことということが多いのです。これは中国でモノ作りを経験したことがある方には共感していただけると思いますが、以前にJawboneのクリエイティブディレクターであるYves Behar氏と会って話したときにも「中国でのモノ作りは、いかに不可能という答えを乗り越えていくかだ」ということを言っていました。

これまでにある技術の場合、それをサンプルとして用意して持っていくと、現実にできているわけですから渋々と認めるのですが、サンプルすら存在していない場合には前に進むことができなくなります。私たちも本当の意味での技術者ではないので、そこで止まってしまうこともたくさんあり、他の分野で同じようなことが実現しているのを見てようやく進むことができたりするのです。

この環境の中で、これまでになかったような新しいこと、ということにチャレンジすることができないと感じていました。このときにも取り組みとしてはいろいろとやっていたのですが、製品化に辿り着かなかったり、あまりにも高額すぎて中国で作るメリットが取れなかったり、最終的にできあがってきたとしても量産時に歩留まりが悪すぎて発売に至ることができなかったりと、かなりもがき苦しんでいたのです。

その中で、ひとつの転機はある国内の保護フィルムメーカーとの出会いでした。気泡が入らないバブルレスフィルムを共同開発してみて、技術的な裏打ちと、新しい製品への開発意欲、そしてスピード感も含めて、非常に満足いくものでした。それまで中国で何度も試作を続けても、なぜだかできない、でもよくよく見てみると指示通りに作っていない、というようなことを繰り返していた中では、日本という国の技術者と仕事をすることは、とても楽しく、そしてなによりも成果が出たのがひとつの転機といえます。コスト面においても、うまく工夫すれば実はそれほど法外に高くならないということも実証されました。なにより、このバブルレスフィルムシリーズは、通常の保護フィルムよりも少し高価ですが、爆発的に売れたのです。つまり、技術的な優位性があり、それがユーザーのメリットになることが明確であれば、多少のコスト高でもユーザーは購入してくれるという良い前例を作ってくれたのです。

しかしながら、ただ日本国内に開発を持ってきたとしても、それだけでいきなりまったく新しい技術を使えるというわけではなく、さまざまな分野でリサーチをしていたところに、原氏との出会いがあったのです。この状況から考えると、本当に運命の出会いだったということがわかってもらえるのではないかと思います。

「[All About 次元(Jigen)]世界に誇る日本の金型技術」へつづく

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このブログを書いたスタッフ

プレジデント

ほっしぃ

音楽からMacの道に入り、そのままApple周辺機器を販売する会社を起業。その後、オリジナルブランド「Simplism」や「NuAns」ブランドを立ち上げ、デザインプロダクトやデジタルガジェットなど「自分が欲しい格好良いもの」を求め続ける。最近は「24時間365日のウェアラブルデバイス|weara(ウェアラ)」に力を注いでいる。

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